1999

プラマイ6

〇コンビニ・店内
店長「で、結局別れたのか」
   レジで喋っている店長。そばには誰もいない。
   店長の歳の頃は三十半ば。バイトの叩き上げという感じで、歳より若く見える。ちょっとうさんくさい感じ。
店長「またぐだぐだ言ったんだろ。お前は物事をはっきり言わないからな。だから嫌われんだよ」
   薄ら笑いを浮かべる店長。
店長「まあ、世の中半分は女だ、どうにでもならあ」
   背中を向けたまま、若い男が商品を持ってくる。
   サンドイッチとコーヒーをレジに通す店長。
   後ろポケットから財布を出そうとする若い男、魚住朔。
店長「いいよ、持ってけ」
   魚住の手が止まる。
魚住「いいんですか」
   怪訝そうな魚住。
店長「今日からお前も同類だな。ははっ」
   店長、商品を袋に入れて差し出す。
店長「お疲れ」
   魚住、おどおどと受け取って、
魚住「お疲れさまでした」
   会釈して立ち去る魚住。

〇商店街
   空が白み始める。
   所々で、仕入れてきた商品を運び入れている店がある。
   人気のない商店街をコンビニの袋をぶらさげて歩いている魚住。
   タイトル。
   朝を迎えた商店街、売り言葉があちこちで飛び交う。
   まだ下町風情が残る町並み。路地裏を覗けば溢れんばかりの鉢植え。
   郵便配達員が商店街を小走りにいく。
   一通り配達し終わると、脇道に停めたバイクにまたがり商店街を後にする。

〇魚住のアパート・外
   住宅街を走るバイク。やがてある一角にバイクを停める。
   配達先の宛名を確認、魚住朔とある。
   二階建のアパートへ向かう配達員。階段を駆け上がる。

〇魚住の部屋
   そこそこに広いワンルーム。そこそこに整頓されている。
   窓際にベッド、テーブルとソファ、部屋の隅にパソコンデスク。ハンガーに掛けられたコンビニの制服。
   カーテンが締め切られた暗い部屋の中で、布団がもぞもぞ動く。
   階段を駆け上がる音が響いて、続いてノックの音。
配達員「(off)魚住さーん、・・・(ノック)魚住さーん」
   布団がもぞもぞ。
配達員「(off)魚住さーん、現金書留ですよー」
   飛び起きる魚住。
魚住「はいっ!」
   Tシャツにスウェットパンツで玄関先へ猛ダッシュ。

〇魚住のアパート・外
   走りだす郵便配達のバイク。

〇魚住の部屋
   テーブルに広げられた五万円と手紙。
   しげしげと見つめる寝癖頭の魚住。スウェットの上を羽織っている。
魚住「助かった・・・」
   カレンダーが捲られる。今日から12月。

〇魚住のアパート・外
   外出する魚住。手ぶら。寒そうにポケットに手を突っ込んで歩く。
   引越屋のトラックと擦れ違う。

〇銀行
   CD機のフタが開く。
   ためらいがちに紙幣を入れる魚住。
   バン、とフタを閉める。

〇本屋
   雑誌を立ち読みしている魚住。
   女性客がやってきて横で何かを探す。
女性(結子)「ちょっと、ごめんなさい」
   魚住、反射的によける。
   雑誌を何冊も手に取っていく女性、魚住に会釈。
   魚住、女性に一瞥もくれず立ち読みの続き。

〇街角
   もはやクリスマス気分の町並み。
   うらさみしそうな魚住、通りを歩いている。
   そろそろ夕暮れ時。

〇魚住のアパート・外
   帰ってきた魚住、引越のトラックがアパートの前に停まっている。
   トラックを見ながら部屋に入る魚住。

〇コンビニ・事務所
   レジカウンターの奥、アコーディオンドアで仕切られた八畳ほどの部屋。裏手の倉庫に続いている。
   中はデスクとパソコン、ロッカーやテーブルがひしめいている。
   テーブルで弁当を食べている魚住。
   店長やってきて、
店長「これも食うか?」
   惣菜のサラダを持ってくる。もちろん期限切れ。
魚住「あ、いただきます」
   パックをテーブルに置く店長。
   店に戻ろうとして踵を返す。
店長「ああ、あのな」
魚住「(振り向いて)はい?」
店長「面接、代わりにやっといてくれ」
魚住「はあ?」
店長「夕方に来るっつってまだ来ねえんだよ。もし来たら代わりに頼むわ」
魚住「・・・いいですけど、そんな時間にルーズなら使えないでしょう?」
店長「女の子なんだよ」
   店に戻る店長。
   魚住、頷いて納得する。

〇コンビニ・店内
   辺りはすっかり夜。
   国道から一筋入った旧道沿いにこのコンビニがある。国道沿いほど賑やかではないが、静まり返ることもない。警察署が近くにあるため、店前でたむろするガキもそれほどいない。
   店内は立ち読みの客数人と、仕事帰りのサラリーマンやOLがぞろぞろではないが、途切れることなくやってくる。
   レジに立っている魚住。
   立ち読みの客が帰り、レジの客(内勤の制服警官:以降、レジ客の中にちょくちょくいる)を送り出すと、店内には誰もいなくなった。
   ふーっと溜息をつく魚住。後ろの壁時計を見遣る。
魚住「十時か・・・」
   面接の子が来ないことを気にしている。
   ダンボール箱を抱えた女性客(結子:このシーン以下同)が入ってくる。
魚住「いらっしゃいませ」
   反射的にカウンターの引き出しから宅配便の伝票を取り出す魚住。
女性客「これ、お願いします」
   ダンボール箱をレジカウンターに置く女性客。身形はジーンズにトレーナー、寒いのに腕捲りしている。若くはないようだがはつらつとした感じ。
魚住「では、こちらのほうに」
   伝票とボールペンを差し出す魚住。
   女性客、身を屈めて書き出す。
   魚住は箱のサイズを測っている。
女性客「あのう、ここ書かなきゃだめですか?」
魚住「はい?」
女性客「ここ」
   差出人、つまり自分の住所のところを指し示す女性客。
女性客「あたし、今日引っ越してきたばっかりなんで、うろ憶えなんです」
魚住「そうですか、・・・でしたら、電話番号だけでも、問い合わせのときに、お客様に連絡がつかないと困りますので」
女性客「携帯でもいいですか」
魚住「ええ」
   女性客をじっと見ている魚住。
魚住「あのう、もしかして・・・」
女性客「え?」
   顔を上げる女性客。
魚住「商店街の肉屋の角を曲がった先の白い二階建のアパートですか?」
女性客「え、ええ、そうです」
   顔を綻せる女性客。
魚住「それなら知ってます。あとで書いておきます」
女性客「そうですか、どうもすいません」
   女性客、少し怪訝そうな顔になる。

   明け方、店長と交代の時間。
   事務所で着替えている店長。(腰にヒップホルスター!)
店長「面接、明日だったわ、すまんすまん。あ、もう朝だから今日だな」
   レジカウンター、足元に置かれた荷物。貼られた伝票を見ている私服の魚住。
魚住「・・・斎木、結子・・・」
   彼女が書いたきれいな字の下に、魚住の不格好な字。
店長「こんな仕事してると、明日も昨日もわかんねえな」
   店へ出てくる店長。
店長「荷物は、それだけか」
魚住「あ、はい。じゃ帰ります」
店長「おう、お疲れ」

〇商店街
   早朝の商店街、一人歩いている魚住。
   店名の書かれたシャッターの閉まった肉屋の角を曲がる。

〇通り
魚住「肉屋の角を曲がった先の・・・」
   歩いていく魚住。
   アパートの前に差しかかる。
魚住「白い二階建のアパート・・・」
   自分の住んでいるアパートを見上げる魚住。
   かぶりを振って歩いていく。

〇コーヒーショップ
将太「別れた? マジかいな?」
   大学の同窓、蟹江将太とコーヒーを飲んでいる魚住。
将太「わからんもんやなー、絶対お前らはそんなならへんて思てたけどなー」
   驚く将太。大阪出身。無粋でがさつでいちびり。話すときは身振り手振り。
魚住「ほんまや、わからんもんやで」
将太「中途半端な大阪弁使うな、ぶち殺すぞ」
   言葉だけ。
将太「またお前うじうじ言うたんやろ。それがいかんっちゅうねん。男やったら決めるときはすぱーっと決めんかいや」
魚住「いいよもう、彼女の話は」
将太「ええことあるかい、お前が付き合う言うから、俺、身引いたのに。それやったら俺がいっとくんやったな。・・・ま、昔の話やけど」
   コーヒーを一口飲む将太。
将太「お前、バイトは?」
魚住「今日は休み」
   将太、すっくと立ち上がり、
将太「よっしゃ、行こ」
   魚住の腕を掴む。
魚住「ち、ちょっと、行こうってどこへ?」
将太「ナンパやナンパ。前の女忘れるには新しい女や。鎌田さんも言うたはった」
魚住「お、おい、将太」
将太「久しぶりに俺のマシンガントークが炸裂するでえ」
   将太に引っ張られていく魚住。

〇橋のたもと
   魚住と将太、河面を見ながら佇んでいる。
将太「・・・くそっ、最近の若い女は中身も見かけもスカスカやな。あほくさ」
魚住「鈍ったな、お前のマシンガントークも」
将太「あほか、俺のせいちゃうわ。あんなレベルの低い連中に、俺の高尚なトークが通じるわけあらへん」
魚住「高尚ねえ」
将太「そない言うんやったら、助けてくれてもええやないか。後ろでじーっと見てんでも」
魚住「任せろって言ったじゃないか、口出すなって」
将太「言うたか?」
魚住「言うた言うた」
将太「使うなっちゅうね、あほんだら」
   河面に煌めくネオン。
将太「・・・なあ、朔よ」
魚住「ん?」
将太「お前、ほんまにれいちゃんのこと好きやったか?」
魚住「なんだよ、急に」
将太「俺な、未だに信じられへんわ。お前らが別れたやなんて」
   魚住のほうを向く将太。
将太「どうやねん、ほんまに好きやったんか」
   橋の欄干にもたれて河面を見つめる魚住。
魚住「別れた、って言えば聞こえはいいけど、・・・本当は愛想尽かされたんだ、彼女に」
将太「え?」
魚住「向こうは、売り出し中のイラストレーター。こっちは、うだつの上がらないデザイナー。彼女は自分の世界をどんどん広げているのに、俺はこのていたらく。ま、愛想尽かされても当然だよな」
将太「お前悔しないんか?」
魚住「え?」
   将太を見る魚住。
将太「悔しないんかっちゅうてんねん」
魚住「彼女には、何も悪いところは・・・」
将太「れいちゃんのこと言うてるんとちゃう。お前のことや」
魚住「俺のこと?」
将太「お前もこっちの人間やったら、この道を選んだ厳しさは知ってるやろ」
魚住「何が言いたいんだ」
将太「俺らみたいな人間はな、志を失うたら終わりなんやぞ。彼女が頑張ってるんやったら、お前も死ぬ気でやれや。恋人が自分より上になったから言うて、それを黙って指くわえて見てる奴がどこにおるんじゃ」
魚住「やってるよ、俺だって!」
将太「死ぬ気でやれ、っちゅうとるんじゃ!」
   踵を返す将太。
将太「あかん、気分悪い。帰るわ」
   すたすたと歩いていく将太。
   見送る魚住。口惜しそうに欄干を叩く。

〇魚住の部屋
   真夜中。電気の消された部屋、パソコンのモニターだけがついている。
   机に座っている魚住。
   大学の頃に書いたデザインの作品群を見ている。
   憮然とした表情。

〇コンビニ・店内
   まだ日は高い。深夜シフトのはずが、店にいる魚住。
   憮然とした表情でレジに立っている。
   商品整理をしている店長。渋い顔で、
店長「仕事してるんだからさ、そんな顔すんなよ」
   店長を一瞥する魚住。
店長「だから悪かったって、急にシフト変えて」
魚住「別にいいですけどね、こっちはヒマなんだし」
   依然として憮然とした表情の魚住。
店長「お前のほうが歳近いしさあ、俺もう最近の若いやつにはついていけねえよ」
   時計を見る店長。まだ昼前。
店長「もう来るからさ、頼むわ、しっかり教えてやってくれよ。もう俺だめだな」
魚住「何言ってるんですか、店長のくせに」
店長「引退したらこの店頼むな」
魚住「じ、冗談じゃないですよ、一生をコンビニの店長で終わる気なんかないですよ!」
店長「六年もバイトしてるやつが言うセリフかよ」
   言葉に詰まる魚住。
店長「ああそうか、お前ともう六年か。早いのか短いのか、・・・あ、一緒だ、長いのか短いのか、だな」
   頭を抱える魚住。
   客が入ってくる。
理羽「お、おはようございます」
   弾かれたようにその女の子を見る魚住。
店長「あ、来た来た。おはよう理羽ちゃん」
   店長、レジのところへ行き、理羽を呼び寄せる。
店長「こいつは魚住、今日一日一緒に働いていろいろ教えてもらってね」
理羽「山賀理羽です。よろしくお願いします」
   あかぬけしてない感じ。そこそこにかわいい。明るい性格。
魚住「あ、ど、どうも、魚住です」
   ぎこちなく会釈する魚住。
店長「じゃあ魚住くん、あとはよろしく頼むよ」
魚住「は、はあ・・・」
   事務所に引っ込む店長。
理羽「お疲れさまでした」
   店内に二人取り残される。
魚住「・・・じゃ、とりあえず着替えてきて」
理羽「あ、はい」
   事務所に引っ込む理羽。
   魚住、溜息一つ。
理羽(off)「きゃー」
   奥から悲鳴が。
魚住「こらあっ!」
   慌てて事務所に駆け込む魚住。

   陽は暮れて。
   店の前を掃除している理羽。
   終えて中に入る。
魚住「もう上がっていいよ、時間だから」
   時計は午後五時。
理羽「はい」
   掃除用具を持って事務所に引っ込もうとする理羽。
理羽「あのう」
魚住「ん?」
理羽「魚住さんは、何時までですか?」
魚住「俺は八時までだけど」
   もじもじしている理羽。
理羽「・・・あのう、七時までいちゃだめですか?」
魚住「へ?」
理羽「どうせなら、仕事早く憶えたいんです。今日は時間があるんで」
魚住「でも、その分は時給つかないよ」
理羽「いいです、それでも」
魚住「なら、別にいいんじゃない」
理羽「はい」
   嬉しそうに事務所に引っ込む理羽。
   魚住、一瞥して薄笑う。

〇コンビニ・事務所
   デスクのパソコンをいじっている店長。
店長「で?」
   弁当を食っている私服の魚住。
魚住「で?って?」
店長「だからどうだったよ、理羽ちゃん」
魚住「ええ、今どきの子にしてはなかなかてきぱきしてて、よかったですよ。自分から動いてくれるから、あんまり教えることもなかったし」
店長「じゃなくてさ」
   キャスター付きの椅子ですーっと魚住の背後に忍び寄る店長。
魚住「な、なんなんですか?」
店長「結構かわいいだろ、な?」
魚住「まあ、ブサイクじゃないですけど」
店長「あれ、お前の好みああいうんじゃなかったっけ?」
   くるっと店長を見る魚住。
魚住「まさかそれでシフトを」
   すーっとデスクに戻る店長。魚住睨みつける。
魚住「店長、そういうの大きなお世話って言うんですよ」
   弁当を持ったまま立ち上がり、デスクの店長に詰め寄る。
店長「(モニターを見て)あ、おにぎりの入荷量が」
魚住「ごまかさない!」
店長「悪かったよ。・・・心配してるんじゃねえか、俺だって失恋の痛さくらい知ってるよ」
魚住「・・・そりゃどうも」
   元のテーブルに戻る魚住。
魚住「プライベートを仕事には持ち込みませんから。そんなひ弱じゃないですよ」
店長「・・・お前がそう言うんならな」
   店から声。
バイト1「レジお願いしまーす」
店長「はいよ。(魚住に)ほら、行った行った」
魚住「え、俺もう上がったのに・・・」
   箸を置いて制服を羽織る魚住。
   見送る店長、ほくそえむ。

〇魚住の部屋
   バスルームから出てくる魚住。
   バスタオルで頭を拭きながら冷蔵庫を覗く。
   牛乳を取り出して飲む。
魚住「(飲み終えて)うあー」
   遠慮がちにノックの音。
魚住「はい(?)」
   怪訝そうに玄関に近づく。
声(結子)「あのう、夜分にすいません、今度隣に越してきた者ですが」
魚住「はい」
   バスタオルを首にかけてドアを開ける。
   斎木結子が包みを持って立っている。
結子「(伏し目がちに)どうも夜分にすいません、斎木と申します。ご挨拶が遅れまして、これあの、つまらないものですが・・・」
   顔を上げる結子。
結子「あ・・・」
魚住「ど、どうも、こんばんは」
結子「あなた、確かコンビニで・・・」
魚住「いらっしゃい、ませ・・・」
   すっとんきょうな返し。
結子「あ、道理であたしの住所知ってるわけだ、なーんだ」
   急にフランクになる結子。
結子「あの時、ちょっと気持ち悪いな、って少し思っちゃった。ごめんなさい」
魚住「い、いいえ、そんな」
結子「あ、これ、どうぞ。あたしの田舎のお菓子ですけど」
魚住「あ、すいません、いただきます」
   受け取る魚住。
結子「じゃ、あたしこれで」
魚住「ありがとうございました。またどうぞ」
   言ってから口を押さえる魚住。
結子「(笑)そうね、またね」
   立ち去る結子。
   魚住、笑みを浮かべながらドアを閉める。

〇コーヒーショップ
将太「脳天気やな、お前は」
   コーヒーを飲んでいる魚住と将太。
将太「でもええよな、隣に女が越してくるやなんて。・・・で、やったんかい」
魚住「あほ! ワイドショーかお前は」
将太「構へんやないか、俗物が興味あるんはやったかやってへんかなんやから」
魚住「そこらの連中と同じにしないでくれよな」
将太「五十歩百歩やけどな、お前の場合」
魚住「まだ挨拶程度だよ。それに」
将太「(身を乗り出す)それに?」
   魚住、厄介そうに、
魚住「だいぶ歳も上みたいだし」
将太「年上か、こら願ったり叶ったりやな」
魚住「なんだよそれ」
将太「年上はなんとかしてなんとか、て言うやないか」
魚住「わかんねえよ、なんとかばっかじゃねえか」
将太「構へん構へん、歳なんか気にすな。好きになったらみな一緒や」
魚住「別に好きだとかそんなんじゃないよ。・・・ただ、なんか気が合いそうだなとは思ったけどさ」
将太「あーもうお前見てたらうっとうしいわ。男やったら、こんこん、ていったらんかい(やすし調で)」
魚住「あ、それとさ、バイトにも女の子が入ったんだ」
将太「な!・・・なんやそれ、お前ばっかり」
魚住「それはいいんだけど、店長が余計な気回すからさ、困るんだよな」
将太「・・・で、やったんかい」
   魚住呆れて、
将太「いや、今のは言うとかんと、ここ笑い取らなあかんとこやし」
   さらに呆れる。

〇コンビニ・店内
   午後8時、魚住が出勤してくる。
理羽「あ、おはようございます」
   レジに立っている理羽。魚住驚いて、
魚住「あれ? 店長は?」
理羽「奥です」
   すたすたと事務所に向かう魚住。

〇コンビニ・事務所
魚住「いい加減にしてくださいよ」
店長「ふが?」
   店長、おにぎりを口にしたまま魚住を見る。
魚住「大きなお世話だってこないだも言ったでしょう!」
   おにぎりをもぐもぐと食べてしまう店長。
店長「俺じゃねえよー」
   包みをごみ箱に放り投げる。
店長「あの子が言ってきたんだよ、お前に合わせてくれって」
魚住「え?」
店長「まずは第一印象ってとこだな。どんでん返し食らうなよ、ってちょっと古いか」
   怒りのやり場がない魚住。
店長「10時までだ、きっちり教えてやれ」
   鞄を持って帰り支度の店長。
店長「じゃあな、また明日」
   魚住の肩を叩く店長。
魚住「お疲れ、さまでした・・・」
   事務所を出ていく店長。理羽の挨拶の声が聞こえる。
   魚住、溜息をついて着替える。

〇コンビニ・店内
   レジに出てくる魚住。
   店には客はいない。
理羽「外、寒かったですか?」
魚住「え? ああ、風が少しね」
理羽「暖房、これくらいでいいですよね」
魚住「いいんじゃない」
   客が入ってくる。
二人「いらっしゃいませ」
   見事に揃ったことに、二人顔を見合わせて微笑む。
   空には寒さを煽るように星が瞬く。
   魚住接客中。客は内勤の若い制服警官。
魚住「え、これからですか?」
警官「そうなんだよ、うちは盆も正月も、クリスマスもないからね」
魚住「大変ですね」
警官「お互い様だよ。そっちこそ、いつも夜通しだろ?」
魚住「僕は、レジ打ってりゃいいだけですから」
   仕草をする魚住。
警官「あーあ、なんで警察官になんかなったんだろうな」
魚住「そんなこと言わないで、がんばりましょうよ」
警官「そうだね」
   肩をすくめる警官。袋を持って出ていく。
魚住「毎度どうも」
   魚住も肩をすくめる。
   客のいなくなった店内、気がつくと理羽の姿が見当たらない。
   レジから出て探す魚住。理羽は熱心に雑誌を読んでいる。
   そっと近づく魚住。
魚住「(脅かすように)まだ仕事中だぞ」
理羽「わっ、す、すいません」
   慌てて雑誌を直す理羽。
魚住「別にいいけど、客前ではだめだよ」
理羽「ご、ごめんなさい」
   理羽の読んでいた雑誌を手に取る魚住。
   それはオーディション雑誌。
理羽「あたし、女優になるんです」
魚住「え?」
   あまりの勢いにたじろぐ魚住。
魚住「なりたい、じゃなくて、なるの?」
理羽「はい。絶対になるんです。そのために、高校も繰り上げ卒業して、劇団にも入ったんです」
魚住「気合い入ってるね、すごいな」
理羽「魚住さんも、何かそういう仕事されてるんでしょう?」
魚住「え? 俺が?」
理羽「違いました? なんか、そんな感じがしたんですけど・・・」
   言葉に詰まる魚住。
理羽「てっきり魚住さんもこっちの人かと・・・、あ」
   客に気づいてそそくさとレジへ。
理羽「いらっしゃいませ」
   取り残された魚住。
魚住「いらっしゃいませ」
   魚住、将太の言葉を思い出す。
将太(回想)「お前もこっちの人間やったら、この道を選んだ厳しさは知ってるやろ」
魚住「・・・こっちの人、か・・・」

   時計は零時。
   見上げている魚住。
   客のいない店内を見渡して溜息。
魚住「・・・腹減ったな・・・」
   食べ物は周りにたくさんある。じろじろと見渡す魚住。
   来客。ドアが開く。
魚住「いらっしゃいませ」
結子「こんばんは」
魚住「あ、・・・こんばんは」
   微笑みながらレジの前を通り過ぎる結子。商品を取りに行く。
   それとなく目で追う魚住。
   結子がこちらへ来たので目をそらす。
結子「何時まで?」
   商品をレジに持ってくる結子。
魚住「え? っと、5時までです」
結子「時差ボケ大丈夫?」
魚住「もう慣れてます」
   話しながら商品をレジに通し、袋詰めする魚住。
魚住「830円です」
   やりとりをする二人。商品を渡し、釣りを受け取る。
結子「じゃ、またね」
魚住「毎度ありがとうございました」
   颯爽と去っていく結子。
   後ろ姿を見送る魚住。ほくそ笑む。

〇商店街
   未明の商店街。
   いつものように一人歩く魚住。

〇魚住のアパート
   建物を見上げてから階段を上がる魚住。
   廊下を歩く魚住。
   結子の部屋からあかりが漏れている。
   気にしながら自分の部屋へ入る魚住。

〇魚住の部屋
   仰向けでベッドに寝ころんでいる魚住。部屋は暗いまま。
   天井を見つめながら考えに耽っている様子。

〇コンビニ・店内
   一週間が過ぎた。
   棚卸しで一緒に働いている魚住と理羽。魚住が指示をだし、理羽が従う。
   レジで親しそうに話している魚住と結子。手を振って店を出ていく結子。見送る魚住。

〇コーヒーショップ
将太「ええ感じなんちゃうん」
   コーヒーを飲んでいる将太と魚住。
魚住「そうなのか」
   カップを口に付ける魚住。
魚住「別に俺はどうこうしようってつもりもないし、その気もない」
将太「相変わらず口だけやなー、お前は。鼻の下びよーんて伸びてんのわからんか」
魚住「えっ」
   思わず鼻の下を触る魚住。
将太「うわ、ベタなリアクション」
魚住「う、うるせえよ」
将太「え、ちょー待ってや、そのバイトの子が、18で、隣のねえちゃんが」
魚住「いやらしい言い方すんなよ」
将太「隣のおねえさんが、いくつ?」
魚住「30だって」
将太「訊いたん?」
魚住「言ってた」
将太「ということは、かたやティーンエイジャーで、かたや三十路のキャリアか。うーん」
魚住「なんでお前が悩むんだよ」
将太「どっちもどっちやなー、きびしいとこや」
魚住「こないだ歳なんか関係ないって言ってたじゃねえか」
将太「あほ、現実は厳しいんや」
   首を傾げる魚住。
魚住「別にいいじゃねえか、仲よくやってんだからさ」
将太「それがいかんっちゅうねん。お前のその優柔不断さがやな、・・・ま、ええわ」
魚住「・・・わかってるよ、何が言いたいか」
   将太、俯き加減で考え込んでいる。
魚住「わかってるって」
   将太、傍らに置いた鞄から本を取り出す。
将太「これ、知ってるか」
魚住「?なんだよ」
将太「っちゅうことは知らんのやな。あとで読め、家帰ってから」
   女性雑誌を渡す将太。
魚住「なんだ、こんなもん読んでんのか」
   雑誌を開こうとする魚住。
将太「あとで読め!」
   将太の勢いに、怪訝そうに雑誌を丸める魚住。
   将太、憮然としてコーヒーを飲み干す。
将太「・・・ほな、俺戻るわ」
魚住「徹夜か、今日」
将太「当分カンヅメや。俺も寂しいクリスマスやで」
   鞄を持ち、冴えない表情で席を立つ将太。
将太「なんかあったら、電話せえや。スタジオにおるし」
魚住「あ、ああ」
   手を挙げて立ち去る将太。
魚住「・・・なんかあったら?・・・何があるんだよ・・・」
   怪訝そうにコーヒーを飲む魚住。

〇街
   通りを歩いている魚住。手には丸めた雑誌。
   どこに目を向けてもクリスマスの文字。

〇魚住の部屋
   明かりをつける魚住。
   手にしていた雑誌をベッドの上へ放り投げる。
   表紙:特集・一人だってクリスマス!、の文字。

〇バスルーム
   湯気の中でシャワーを浴びている魚住。

〇魚住の部屋
   バスタオルを頭に乗せたまま冷蔵庫を覗く魚住。
魚住「しまった・・・」
   牛乳がない。冷蔵庫を閉める。
   そのままベッドに座り込む魚住。
   雑誌を眺める。
   やがて手にとり、読みだす。
   すぐに魚住の表情が一変する。
   目次に”永峰れい”の名前が。
   ページをめくる魚住。

〇魚住のアパート・外
   スウェットでアパートから出てくる魚住。

〇魚住の部屋
   ベッドの上には開いたままの雑誌が。

〇通り
   憮然として歩いている魚住。
れい(声)「(インタビュー記事)ええ、大学時代から付き合ってた人と、最近別れちゃって。別に嫌いになったわけじゃないんですけど、同じ歳で似たような仕事してると、どうしてもライバル心っていうか、お互いのポジションが気になるんですよね。で、あたしのほうがどんどん先に進んじゃって、彼が取り残されたみたいになったんです。そしたら、彼途端にいじけちゃって。やっぱり、同い年だとヘンに気負っちゃうところがあるんですよね。そんな人じゃなかったのにな」

〇コンビニ・店内
店長「いら・・・、なんだ、お前か」
   憮然としたままで店に入る魚住。
   店長には一瞥もくれずまっすぐ奥へ進む。
店長「珍しいな、オフの日に来るなんて」
   牛乳を掴んでレジに置く魚住。
店長「なんだ、機嫌悪そうだな」
   商品をレジに通す店長。
店長「なあ、お前、年上と年下どっちがいい?」
   魚住、店長をじっと見据えて、
魚住「・・・なんですか、それ」
店長「(すらーっと淀みなく言う)年のころは三十前後、細身でちょっとグラマー、髪は肩までの茶色掛かった黒、目は大きく目尻は少し上がり気味、鼻筋は通って唇は下がやや厚目。心当りは?」
魚住「ええ、隣に住んでいる人ですけどそれが何か?」
店長「いつもの人は? って訊かれたぞ」
魚住「そうですか」
   袋を魚住に渡す店長。
店長「何か書類のようなものを持っていたが、別にコピーもせずにそのまま持ち帰った。あれ、たぶんお前に渡すものだったんだろうな。隣なら持っていきゃいいのに」
   魚住、袋を受け取る。
店長「毎度、ありがとうございました」
   何か言いたそうな魚住。店を出る。

〇魚住のアパート
   前までやってきて立ち止る。
   自分の部屋の辺りを見上げたあと、階段を上る。
   結子の部屋を通り過ぎ、自分の部屋の鍵を開ける。
   動きが止まる魚住。
   袋をドアノブに掛け、鍵をポケットに閉まって結子の部屋の前に行く。
   結子の部屋、明かりはついている。
   それを確認して、ノックしようとするがためらう。
   一呼吸置いて、意を決してノックする魚住。
   遠く返事が聞こえる。
結子(声)「どちら様?」
魚住「魚住です」
   鍵が開いて、ドアが開く。
魚住「ごめんなさい、こんな夜遅くに」
結子「いいえ、構わないわよ。どうしたの?」
魚住「先刻、コンビニで店長から訊いたんですけど」
結子「あ、そう・・・」
魚住「・・・僕に、何か用事、あったんですか?」
結子「そ、そういうわけじゃないんだけど、いなかったから休みなのかなって」
魚住「そう、ですか。・・・すいません、失礼しました」
   行こうとする魚住。
結子「待って」
   振り向く魚住。
結子「ちょっと待ってて」
   部屋の奥へ行く結子。何か手に持ってやってくる。
結子「これ、読んで欲しかったの」
   閉じた紙の束を渡す結子。
結子「あたしね、作家になるの」
魚住「作家?」
結子「そう。小さな文芸誌だけど、新人賞獲ったの。それで、会社辞めて、家も引っ越して、再スタートってわけ」
魚住「そうなんですか」
結子「それ、明日編集者のところへ持っていくんだけど、その前に読んでもらおうと思って。ほら、深夜のコンビニっていっても、結構ヒマなときってあるでしょ。だから、君にヒマ潰しでいいから読んでもらおうかなって」
   魚住の顔色を窺う結子。
結子「読んでくれる?」
魚住「・・・まだ、起きてますよね」
結子「え?」
魚住「読み終わったら、感想を言いに来ますから、それまで待っててください。僕じゃ、役に立たないかもしれないけど」
結子「・・・ありがとう。待ってるわ」
魚住「じゃ」
   紙の束を受け取る魚住。

〇コンビニ・事務所
   テーブルで弁当を食っている魚住。
   店長やってきて、
店長「これ食うか」
魚住「いただきます(笑顔)」
   店長、気味が悪そうに惣菜のパックを渡す。
店長「(呟く)昨日とえらい違いだな・・・」
魚住「これおいしいですね」
店長「ははっ、そうか」
   愛想笑いで店に戻る店長。すぐにとって返す。
店長「あ、忘れてた。これ」
   ポケットから封筒を取り出す店長。
店長「お前に渡してくれって、ラブリー理羽ちゃんから」
魚住「は? なんすか、それ?」
店長「別に意味ねえよ、ほら」
   手裏剣のように封筒を放り投げる店長。
魚住「ちょっとお、ちゃんとしましょうよ」
店長「このイカレポンチ」
   店に戻る店長。
魚住「誰がイカレポンチだよ・・・」
   封筒を拾い、開ける魚住。
   中には手紙とチケットが。手紙を読む魚住。
魚住「へえ、芝居やるのか・・・」
   したり顔で手紙を読んでいる魚住。
店長「絶対絶対来てください、はーと」
   いつのまにか後ろにいて手紙を音読する店長。
魚住「うわっ!」
   飛び上がって驚く魚住。
魚住「て、店長!」
店長「ちぇっ、お前だけずるいなあ・・・」
   肩を落として店に戻る店長。
魚住「ったく、なんなんだよ」
   チケットと手紙を大事そうにしまう魚住。

〇コンビニ・店内
   着替えて店に出てくる魚住。
店長「魚住、これ持っていけ」
魚住「へ?」
   腰の背中寄りのインサイドホルスターから銃を抜く店長。
魚住「いいですって、大丈夫ですよ」
店長「今日は満月で給料日前だ。こんなときに、悪の心が騒ぎだす」
   マガジンを抜いて確かめる店長。
魚住「大丈夫ですって、強盗なんか来やしませんよ。すぐそこに警察署もあるんだし」
店長「警察は深夜営業してないぞ」
魚住「相手が本物持ってたらどうするんですか」
店長「それは知らん」
魚住「んな無責任な」
   スライドを引いてハンマーを落としてから銃を差し出す店長。
店長「実績はある。心配するな」
魚住「いいですって。大丈夫です」
店長「警察庁もご推薦だぞ」
魚住「してないって」
店長「・・・そうか。ならいい」
   慣れた手つきで銃をしまう店長。
店長「被害金額は、給料から差っ引く」
   事務所へ引っ込む店長。
魚住「・・・鬼」

〇夜空
   に浮かぶ満月。

〇コンビニ・店内
   午前二時、客はいない。
   レジに立っている魚住。
   チケットを見ながらほくそ笑んでいる。
   来客。
魚住「いらっしゃいませ」
   ニットの帽子を目深にかぶって、ダウンジャケットを着込んだ若い男の客だが、どことなく挙動が不審。
   魚住、しばらく目で追う。
   客、生活用品の辺りで何かを探している。時々レジの魚住のほうを見る。
   やがて、何も商品を持たずにレジへ来る。
   魚住、カウンターの裏にある通報装置の位置を確かめる。
   客がレジに来る。
客「なあ・・・」
魚住「は、はい、いらっしゃいませ」
客「ここ、コンドームとかねえの?」
魚住「は? コ、コンドームですか。も、申し訳ありません、うちでは扱っておりません」
客「あ、そ」
   帰る客。
魚住「・・・ふーっ」
   安堵の魚住。
魚住「脅かしやがって」

〇コーヒーショップ
   呆れてコーヒーを飲む将太。
将太「はーん、なんやお前だけもてもてさんやな」
   チケットをひらひらさせながらにやついている魚住。
将太「世の中わからんわい」
魚住「妬くな妬くな。これも俺の人徳ってやつさ」
将太「お前、俺の渡した雑誌見たんか?」
   魚住、ちょっと真面目な顔。
魚住「ああ、見たよ」
将太「けっ、見てそのていたらくかい。あほくさ」
魚住「あの記事に嘘も誇張もないよ。あれが全てさ。そりゃまあ、腹は立ったけど」
将太「そやろ? ほならなんでいてまえへんのや」
魚住「何をだよ」
将太「別にれいちゃんをどうこうせえとは言わへんけど、一矢報いたいとは思わんのか」
魚住「どうしろってんだよ」
   身を乗り出す将太。
将太「あのな、わかってへんようやからこれだけははっきり言うとくわ。芸大出たんやったらな、芸術で勝負せんかい。このままコンビニの店長にでも収まる気か」
魚住「それお前、コンビニ馬鹿にしてんのか」
将太「ちゃうわ、あほ。このままやったら、何のためにお前は芸大へ行ったんや、っちゅうとんねん。芸術の道へ進むためやないのか」
魚住「それは・・・」
   将太、かぶりを振って、
将太「やっぱりお前はそこらの連中と一緒やったんやな。現状に甘んじて、己の志を突き通すことをせん、そこらの連中とな」
魚住「そんな見下した言い方・・・」
将太「見下してると思うのは、お前に劣等感があるからやないのか!」
   言葉に詰まる魚住。
将太「芸術なんてな、人が生きるために絶対に必要なもんやない。なくてもええ。でもな、そういう余裕が人間には必要なんや。余裕のない、切羽詰まった人生がおもろいわけないやろ。俺らはな、芸大を出て、その余裕を満たすことができる仕事ができるんや。それを誇りに思わんかい」
   将太の言葉を聞いている魚住。
将太「道を間違うたんやったら、別に構へん。コンビニの店長でもなんでもなったらええがな。でもな、それはそれで世界があるんや。中途半端な気持ちでやらんと、死ぬ気でやれ。どっちつかずもええ加減にしとけよ」
   立ち上がる将太。
将太「お前、れいちゃんに負けて逃げてるだけなんやぞ」
魚住「逃げてる?・・・」
将太「・・・ちょっと、お前には呆れかけてる。その腕腐らすんやったら、俺が切り取ったるからな」
   店を出る将太。
   魚住、返す言葉がない。

〇魚住の部屋
   暗い部屋、パソコンのモニターがスクリーンセーバーを映しだしている。
   ベッドに仰向けに寝ころんでいる魚住。
   回想、
理羽「あたし、女優になるんです」
   回想、
結子「あたしね、作家になるの」
   寝返りをうつ魚住。大学時代を思い出す。

〇回想・大学時代・キャンパス
   教室で授業を受けている魚住と将太。
   遅れてやってきた永峰玲子に出席カードを渡す魚住。
   笑顔で受け取る玲子。肘で魚住を突く将太。
   食堂、イラストボードに書かれた課題を見せ合う三人。
   あれこれと意見を言い合う。三人とも真剣な表情。

〇回想・橋のたもとの将太
将太「死ぬ気でやれ、っちゅうとるんじゃ!」

〇魚住の部屋
   きつく目を閉じ、布団を頭からかぶる。

〇コンビニ・店内
   深夜。呆然とレジに立っている魚住。店に客はいない。
   一点を見つめてぼーっとしている。
   来客に身体が反応し、入り口を向く。
魚住「いらっしゃいませ・・・」
   昨夜のコンドームの若い男。ダウンジャケットのポケットに手を入れたまま、真っすぐレジへやってくる。
客「なあ、・・・ここ、コンドームなかったよな?」
魚住「は? ・・・あ、はい、こちらでは扱っておりません」
客「でもさ、・・・金はあるよな」
魚住「は?」
   男の手にはナイフ。魚住のほうへ向ける。
客「出して。金」
   魚住、微動だにせず、
魚住「申し訳ありません、お客様にお金をお渡しするわけには・・・」
客「うるせえ!」
   襲いかかろうとする男に、魚住が何かを突き付ける。
魚住「動くな! ちょっとでも動いたら、その腐った脳ミソぶちまけてやる!」
   魚住が客の額に突き付けているのは、銃の格好をした指。
客「な、なんだそれ?」
魚住「俺だって、死ぬ気でやりゃなんでもできるんだよ!」
客「・・・てめえ!」
   外は雪。
   遠くに救急車のサイレン。

〇病院・302号室
   不満そうな顔の店長。
店長「・・・だから言ったのに」
   病室のベッドには、包帯だらけの魚住。
魚住「へへへ」
   元気そうに頭を掻いて笑うが、痛い。
魚住「で、でも、被害金額ゼロですよ」
店長「・・・ばかやろう、大損だよ」
魚住「え?」
店長「・・・また来るわ。何か食いたいもんあったら言えよ。うちにゃ何でもあるからよ」
   椅子から立ち上がる店長。
魚住「なら、期限切れじゃないやつ、持ってきてくださいよ」
   魚住の腹の上にはいろんな食べ物が。
魚住「これ全部今日中に食べられませんよ」
店長「贅沢言うな、ケガ人のくせに」
   病室を出ていく店長。
   入れ違いに将太が飛び込んできてぶつかる。
将太「あ、す、すんません」
   そそくさと店長に謝って、魚住のベッドに駆け寄る。

〇病院・廊下
将太(声)「ほんまに死ぬ気でやる奴があるか、あほ!」
   泣きの入っている将太の声を聞きながら、廊下を歩く店長。

〇病院・玄関外
   寒そうに身を縮ませて、病院を一瞥してから携帯電話を取り出す店長。
理羽「店長!」
   魔女の衣装を着た理羽が血相を変えて走ってくる。
店長「ああ、ミイラ男なら302号室ね」
   病院玄関へ駆け込む理羽。
   店長、どこかへ電話を掛ける。
店長「あ、強行犯係? 俺だけど。んー、久しぶり。係長いる? あ、そう、じゃいいや。あのさ、挙がった?・・・あ、そう。んじゃ早く挙げろって連中に言っておいて。でないと、今度から店員に本物持たせるよ。・・・冗談だって。じゃ、よろしくね」
   電話をしまう店長。
店長「ったく、俺がいないと日本の警察はだめだな・・・」
   とぼとぼと歩いていく店長。

〇病院・302号室
理羽「魚住さん!」
   魔女の格好で飛び込んでくる理羽。
魚住「あ、理羽ちゃん。ごめんね、今日の芝居行けなくなった」
   ベッドの魚住を見て、気を失う理羽。
将太「おっと!」
   理羽を抱きかかえて窓際のソファに横たえる将太。
魚住「り、理羽ちゃん?」
将太「大丈夫や、心配いらん。・・・この子の気持ちもわかるわ。俺も最初に訊いたときは心臓飛び出そうやったもんな」
魚住「大袈裟だなあ。確かに傷の箇所は多いけど、ほとんどかすり傷ばっかだからさ。ま、ちょっと深いのもあるけど」
将太「とにかく、思ったより元気そうなんで安心・・・」
   ノックの音。
魚住「はい」
将太「なんや、今度はシンデレラでも来るんか」
   扉を開けて入ってきたのは結子。
結子「(息を飲む)魚住くん!」
魚住「あ、どうも。あれ、誰が知らせたんだろ」
結子「大丈夫なの?」
   ベッドに駆け寄る結子。
魚住「ええ、まあなんとか生きてます」
結子「よかった・・・。もう、びっくりしちゃって・・・」
   ぼろぼろ泣き出す結子。
魚住「だ、大丈夫ですって、斎木さん。よ、弱ったなあ」
   将太、冷めた目線。
将太「・・・なんやお前、ほんまにもてもてさんやな」
   ベッドに突っ伏して泣き出す結子。
将太「帰るわ。俺のむさ苦しい面見てるよりはそっちのほうがええやろ」
魚住「あ、おい、将太待てよ」
将太「ほなな、お大事に」
   扉を開ける将太、その場で凍り付く。
魚住「将太、待てって」
れい(声)「(力なく)・・・朔は?」
   魚住、その声にビクっとする。
   将太、すーっと扉から離れる。そこにいたのは永峰れい。
魚住「れ、れいちゃん?」
   顔を上げる結子。理羽もソファで気が付く。
   魚住、理羽、結子、れい。四人の視線がそれぞれに交錯する。
   将太、肩をすくめて、
将太「・・・なあ、魚住。この続き、月9でやるか?」
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