1996

私立普門学園高校 #4 ~激闘!キッチンスタジアム~

 七十二パーセント。
 本学園生徒の昼食時における食堂の使用率である。
 二百名収容可能な、一見無謀とも思える巨大な食堂でさえ、昼休み中は席の空くことがない。
 二百五十パーセント。
 本学園、料理部の部員増加率である。
 世間の流行は、思わぬところで波及効果をもたらすもので、いずれの数字もそれによるところのものである。
 料理部部長、二階堂司は、この機に乗じて部の昇格を企んでいた。
 本学園の部活動は、文化系・体育系という分類だけではなく、それぞれに一部・二部という分類が存在する。
 一部は、学園の実益や運営に直接貢献しているクラブ群で、設備や予算の面で優遇される。精力的且つ恒常的な活動を要求され、その内容が思わしくないときは、学園側から解散を要求されることもある。
 これに対して二部は、趣味的な色合いの濃いクラブ群である。大学のサークルレベルと考えてもらって差しつかえないだろう。従って活動費の一部は、部員が負担しなければならない。
 料理部は、現在その二部リーグにある。部員も大幅に増加した今こそ、昇格のチャンスだと二階堂は睨んでいた。
 残り少ない任期中に、その布石だけでも最低限敷いておきたい。粘り強い二階堂の説得は、部活評議会はおろか、学園総会までも動かしたのだ。
 フランス料理店を経営している父の助けもあって、計画はシナリオ通りに進んでいった。まず、知り合いのコック監修によりメニューを一新、新たにカフェテリア方式を導入した。そして更に学園側は、食堂の増設を計画。そして二階堂の最終目標である、料理部による食堂運営を、段階的にではあるが認める方向へ話が進んでいった。
 こうも学園側が動いた背景には、やはり先の数字を無視できない現状があった。料理部による食堂運営が軌道に乗れば、業者委託を見直すことで計上される経費は、格段に削減できる。もちろん、部活動の推進にもなる。
 学園にとって、料理部にとって、そして二階堂にとっても、機は熟したと言えるだろう。
「手ごたえありですね、二階堂部長」
 遠山賢司副部長は、もう昼休みも残り少ないというのに、そのどでかい腹に見合うだけの昼食をまだ採れていなかった。北海の幸ラーメンに天津飯、ミートスパゲティにたこ焼き、先刻デザートにマンゴスチンシャーベットを頼んだばかりだ。
「・・・エンゲル係数の高いやつめ」
 まだ混雑が続く食堂を見渡しながら、二階堂はカフェオレとベニエのメイプルソースをつまんでいる。眉の辺りまで垂らした前髪を時折掻き上げて、白いカップにすっと手を延ばす。
 育った環境のせいもあるだろうが、どことなくその仕草には気品がある。悪く言えば、ただ気取っているだけだが、遠山といると余計際だってみえる。
「ん部長、ぐぉ存じですくぁ・・・」
「食べるか喋るかどっちかにしろ」
「んぐ・・・、先刻、並んでるときに聞いたんですけど、なんか、交換留学とかで、生徒が一人来るそうですよ」
「どこから?」
「大阪です」
「そういうの、留学っていうのか?」
「さあ・・・」
 別にどうでもいい話なので、二階堂は付き合うのを止めた。しかしそれにしてもこいつはよく食う。料理部の副部長でなければ、ただの大食らいだ。副部長でなくてもそうだが。
 ただ食うだけなら、こんなやつさっさと部から追い出したいが、二階堂は彼の味覚を買っていた。だしやスープを一口飲んだだけで、材料や加えた割合までピタリと当ててしまう。彼がYESと言う料理は、必ずヒットするのだ。二階堂の店も、少なからず恩恵を受けている。
 午後の授業開始の予鈴がなって、早食いしだした遠山を置き去りにして、二階堂は食堂を出た。
 フランス歩きの二階堂が廊下を行く。
『うわあっ!』
 倒れ方は普通だった。
「ああ、す、すんまへんな、大丈夫でっか?」
 聞き慣れない言葉に、二階堂は一刻も早くその言葉の主を確認したかった。
「ちょっと、急いでたもんやさかいに、どこも怪我したはらしまへんか?」
 二階堂は倒れ込んでいるにもかかわらず、その生徒との目線はほぼ平行だった。
「だ、大丈夫です」
 立ち上がるにつれ、えらく背の低い生徒なことがわかった。が、生徒ではなかった。制服が微妙に違っていた。型は同じだが、部分で使われている黄色は、本学園では使用されていない色だった。
「ほな、急ぎまっさかいに、失礼します」
 なんていろんな意味で濃い奴なんだろうと、後ろ姿を見て二階堂は思った。言葉も歩き方も、顔のパーツも、何もかもだ。
「・・・あいつか?」
 早足で階段を下りながら、二階堂はどことなく引っ掛かるものを感じていた。

 書類をぱらぱらと捲りながら、教頭はずり落ちた眼鏡を人差し指で直した。
「遠いところを御苦労だね」
「何をおっしゃいますやら、教頭はん。これもお互いの親睦のためでんがな」
「あ、ああ、そうですね・・・、で、来週から二週間、授業は2のA組と一緒に受けてもらうとして、クラブのほうは、これでいいのかい?」
「へえ、大阪でやってますさかいに、できたらおんなじクラブでやらしてもろて、そちらさんであんじょうやってくれはると・・・」
「ああ、よろしい、後ほど部のほうに紹介しておこう」
「それで、あのう、できれば学園のほう今日中に見ておきたいんでっけど・・・」
「それは構わないが、では放課後まで誰かに案内させよう」
「いえいえ、そんな、みなさんのお手を煩わすわけには、わて一人で行きまっさかいに。あの、食堂はどちらに?」

 港真由未は、今になって少し後悔していた。
 彼女が所属するイベントプランニング部は、既存のクラブとは一線を画し、学園で行なわれる全てのイベントにおいて、独自の権限を与えられて参画する。
 生徒会長選挙を無事終えたばかりというのに、もう六月のイベント案を今日中に決定しなければならない。
 このイベントが、部長としての任期最後のものとなるので、そのプランは恒例により真由未自身に一任されている。
「ああっ」
 真由未の口から、苛立ちともとれる苦悩の溜息が漏れた。
 いつもくるんとなっているポニイテイルが、今日はいささか威厳がない。
「・・・どーしよー」
 湯水の如く湧いていたアイデアも、今日に限ってすっかり枯渇してしまっていた。
 部室では、全部員がすぐにでも動けるように待機している。放課後の食堂で、一人真由未は過去に覚えのないほどのプレッシャーに嘖まれていた。
「・・・あー、もう」
 独り言が多くなっている自分をごまかすように、真由未は冷めきったエスプレッソを飲み干した。
「・・・なんや、このたこ焼きは。人をおちょくるのもええかげんにしいや」
 聞き慣れない言葉に、真由未は思わず振り向いた。
「・・・ちょっと、食材見せてもらうよってに」
 一人の生徒が、厨房に立つ調理人に詰め寄っていた。真由未は、傍観を決め込んだ。
「なんや、これ!?、たこ焼きにネギ入れるアホがどこにおんねん。生地の風味がとんでしまうやないか。それにこの生地や。粉を溶くだしの量が少ないがな。こんなんやったら、焼き上がりがホットケーキみたいになってまうで。・・・天かすは?、天かすはどこや、あらへんやないか」
「はあ?、てん、かす?」
「天かすや、天かす。あんたらがたぬきそばに入れるもんや」
「ああ、揚げ玉ね」
「揚げ玉ね、やあるかい。こんなたこ焼きつくられたらたまらんな。おい、責任者どこや、責任者呼んでこい!」
 食堂にざわめきが起こっていった。怪訝そうな顔をしながら、調理人は受話器を取った。
「・・・面白くなりそうね」
 真由未は、ほくそ笑んでいる自分にかぶりを振った。
「どうか、しましたか?」
 遠山を従えて、二階堂が食堂へやってきた。
「君は・・・」
「・・・お、なんや、さっきのにいちゃんかいな」
 厨房のカウンターを挟んで向かい合う二人に、真由未は戦慄さえ覚えた。
「あんさんが、ここの責任者だっか?。どうみても、教職員にはみえまへんけどな」
「私が責任者です。料理部部長、二階堂司。君は?」
「そちらが名乗らはったんやったら、こっちも名乗らんと、しょうがあらしまへんな。わては、大阪普門学園高校・料理部、黒門太一」
「・・・大阪から交換留学で来たという、物好きな生徒は君だったか」
「えらいお言葉でんな、部長はん。ここのメニューは、あんさんがこしらえはったんで?」
「ああ、私が監修したが、それが何か?」
「あんなたこ焼き食わされたら、かないまへんな。大阪のたこ焼きに、えらい泥塗ってくれはったもんや」
「・・・ふふ」
 前髪を掻き上げて、二階堂が不敵に笑った。
「何がおかしいんや、部長はん」
「・・・ネギが入ってて、だしの量が少なく、天かすが入ってないと言うんだね?」
「あ、あんさん、知っててつくってんのんか?」
 黒門の太い眉が、捻れて歪んだ。
「確かに、大阪のたこ焼きと違うことはわかっている。しかし、ここは大阪ではない。この土地に合った味覚に敢て変えることも、必要だと思うのだが、違うかね?」
「・・・ああ、そやな。確かに、それも必要かもしれん。せやけどな、たこ焼きをそないにつくるっちゅうことは、わてらのプライドを傷つけられてるのも同然なんや。この落とし前は、どないつけるっちゅうんじゃい!」
 カウンターを平手打ちした黒門にも動じず、二階堂は静かに佇んで腕組みをしたままだ。
「・・・どないつけましょうか、黒門はん?」
「なんやと!?、けったいな大阪弁使いなはんな。それが一番腹立つんや」
 対峙する二人に、ポニイテイルが割って入った。
「その落とし前、私につけさせてくれないかしら?」
 水を得た魚のように微笑む真由未に、二階堂も黒門も呆気にとられるしかなかった。
『御苦労様です、港部長!』
 その笑顔に、待機していたEP部員一同は色めきたった。
『料理対決?』
「そう。大阪から交換留学でやってきた料理部の生徒と、うちの料理部部長が対決するの。そうね・・・、鉄人方式でやりましょう」
『で、いつですか?』
「明日よ」
『ええっ!!』
「山下君、放送部に行って、機材と人員を確保して。台本ができたら、打ち合わせに行くから、それまでチーフ押さえといて。遅くなるかもしれないから逃がさないでよ。木田君は、エンターテインメント部に行って、MC一人押さえて。嫌味のないのお願いね。試食人も要るわね・・・、田中さん、適当に三人ほど押さえといて、任せるから。公平にね。あと、西山君、篠崎さん、高田君、中井さん、今から台本つくるから手伝って。残りの人はそのまま待機、台本あがったら、セットの仕込みするからよろしくね」
 ポニイテイルにも威厳が戻った。
「よし、解散!」
 港真由未、最後のプロデュースイベントが、号令とともに今、動きだした。

「部長、少し、早計かもしれませんよ」
 食堂に隣接している料理部の部室で、遠山は言いにくそうに切り出した。
「お前までなんだ遠山、大阪もんの味方する気か?」
「ご存じないんですか?、あの生徒」
「知るか、あんなけったいなやつ」
 二階堂は、思わず口を押さえた。
「・・・うつったかな」
「私も、名前しか知らないのですが、あの黒門太一という生徒は、大阪料理部の精鋭中の精鋭で、あの神田川も一目置くほどの腕前とか。以前、全国高校クッキング選手権に出場したときに、あまりの腕の良さに勝負にならず、プロデューサーが頭を下げて辞退してもらったそうです」
「ふん、他愛もない」
「それだけではありません。大阪校では、既に食堂が料理部によって運営され、タウン誌のグルメマップに載るほどの盛況ぶりなんです。この勝負、たとえ二階堂さんでも、勝てる保証は・・・」
「ばかを言うな!、この私が負けるとでも言うのか!!」
 遠山は、いきり立つ二階堂の二の腕を掴んだ。
「いいですか、二階堂さん。奴は二年生ですが、部の要職に就いていません。その予定もないんです。ということは、奴より優秀な料理部員が、他にいるということなのです」
「・・・あいつが、下っ端だと?」
「そう考えたほうが賢明でしょう。今一番危険なのは、自分の腕を過信することです。相手を過小評価するのもまずいでしょう。奴にどれだけの力があるのか。大阪人は、食と笑いにかけては誇りを持っています。明日は、気を引き締めてかからないと、コンクリ詰めで南港沈められまっせ」
 遠山お前もか、と思いつつ、二階堂は大きな溜息をついた。

「・・・なんとか、間に合ったわね」
 教育委員会には内緒だが、EP部の徹夜の作業によって、食堂はキッチンスタジアムに生まれ変わった。どこで聞き付けたのか、折角の土曜休日だというのに、グラウンドには数十名の生徒がたむろしている。
「客入れは考えてなかったけど、まいいわ。整理の人員を割いといて」
 放送部も同様、徹夜のリハーサルを繰り返して準備は万端、バトル開始の時刻までは仮眠タイムとなった。
『俺達もこれが最後さ。気合いが入らないわけねえよ』
 放送部中継スタッフは全て三年生、ベテラン揃いである。真由未も副調整室に詰めて、ここから勝負の行方を見守る。
 時が来た。
 鹿賀丈史に負けず劣らぬMCが、乗り遅れた貴公子みたいな派手な衣装で登場する。
「・・・嫌味のないの、って言ったのに・・・」
『ようこそ、我がキッチンスタジアムへ。今日の対決を迎えることは、私も非常に心待ちにしていました。それでは早速ご紹介しましょう、いでよクッキングファイター!』
 調理着を着込んだ二階堂と黒門が、揃ってスモークの中から現われた。
「気合い入ってるわね」
『そりゃそうですよ、なんたって、みんな最後なんですから』
「そうよね・・・」
 参考書を広げているスタッフを見ながら、真由未はしみじみ頷いた。
『これはまさしく代理戦争以外の何物でもありません。各校を代表する料理部員が、剣を包丁に替え、盾をまな板に替えて戦います!』
 嵩高いコック帽も様に、前掛けの紐を絞め直す二階堂。“心”と書かれた鉢巻きをして、なぜか晒しに下駄履きの黒門。厨房の中の二人が、激しく睨み合う。
『今日のメニューを決めるにあたって、私は非常に悩みました。五月ももうすぐ終わり、それからはじめじめした天気が続くでしょう。梅雨です。梅雨は、梅の雨と、書きます。さあ、今日のメニューはこれだあっ!』
 カウンターの上に置かれた白い布を、MCがひっぺがす。
『今日のメニューは、う・め・ぼ・し』
 二人の酸っぱい表情が、モニターに映しだされた。
「シ、シャレよ、シャレ」
 目を細めて振り向いたディレクターに、真由未は愛想笑いでごまかした。
『ア・レ・キュイジーヌ!!』
 あるいは手を打ち鳴らし、あるいは顔を叩いて、戦いの火蓋は切って落とされた。
『さあ、いよいよ始まりました、料理対決。双方、同じ分量ずつ梅干しを取り分けて、それぞれキッチンに入りました。申し遅れました、私、実況の放送部部長、鎌田久信。そして解説には、料理部副部長、遠山賢司さんをお迎えしております。遠山さん、お気持ちはわかりますが、公平な解説を一つよろしくお願いします』
 遠山の膨れた顔が、モニター一杯に広がった。
「なんで鎌田君があそこにいるのよ?」
『ど、どうしてもやらせてくれって、きかなくて・・・』
 目を細める真由未に、ディレクターは愛想笑いでごまかした。
『予算の関係上、助手はおりません。食材も冷蔵庫にあるものだけです。従って、早いもの勝ちということにもなるかと思いますが、おっと、二階堂選手、早速冷蔵庫から、何やら取り出している様子ですが・・・』
『鎌田さん』
『はい、どうぞ、山口さん』
『はい、えー、二階堂選手ですが、えー、冷蔵庫から鶏肉、レモン、キャベツを取り出しました』
 その様子が、モニターに捉えられている。
『ど、どうしても、やりたいって、副部長も・・・』
 真由未は、細める目もなくなった。
『香味揚げでもつくるんじゃないでしょうか』
『なるほど。一方、黒門選手のほうですが、おや、米ですか?、おっと、袋ごと持ってきましたが、御飯を炊くんでしょうか?』
 黒門の不可解な行動に、副調整室もざわめきだった。
『なに考えてんだ、あいつは?』
『そういえば、腹減ってきたな』
 真由未は、ひらめいたことがあったが、今は胸のうちにしまった。
『おっと、米を研ぎ終わって、これは相当な量です。備え付けの釜を全て使って、どうやら黒門選手、炊き出しでも始めるんでしょうか』
『まさかおにぎりつくるってんじゃないでしょうね』
『その間にも、二階堂選手は素晴らしい手つきで、鶏肉をさばいております』
 やはり、台所に慣れている方が、使い勝手という点で有利ではある。
「・・・勝負あったな、黒門・・・」
 不慣れな板場では、百パーセント力を発揮できないのは、残念ながら事実だ。しかし黒門は、既に勝負に出ていたのだった。
「・・・部長はん、浪花のド根性、思い知りなはれ・・・」
“心”と書かれた鉢巻きが、まるで黒門の料理魂のようで、真由未には恐ろしく思えて仕方なかった。
『これは一体、どういうことでしょうか。御飯を炊き始めた黒門選手ですが、その後はじっと立ちすくんだまま動こうとしません。遠山さん、これは一体・・・』
『いや、私にも皆目見当がつきません。まさか本当におにぎりをつくるのでは』
『その隙に、おっと、二階堂選手、二品目にかかり出したようですが』
 モニターに囲まれた時計が、三十分経過を示した。
 黒門の依然として奇妙な行動に、副調整室でも様々な意見が飛び交った。
『やる気あんのか?、あいつは』
『勝ち目ないから投げてるんじゃねえか?』
『なにが食い倒れの大阪よ』
「・・・いいえ、・・・この勝負、かなりもつれそうよ」
 真由未の言葉に、ディレクターからスイッチャーからタイムキーパーから、全てのスタッフが振り向いた。
『ど、どういうことですか?、港さん』
「・・・彼は、黒門くんは、もう勝負に出ているわ。残り十五分に、恐らく賭けている・・・。逃さないでね」
 ディレクターは、首を傾げながらもモニターに向き直った。
『さあ、あと十五分です。黒門選手、依然として微動だにしません。じっと米が炊き上がるのを待っているようですが、おっと、炊き上がったか?、黒門選手動きだしました』
『鎌田さん、塩水の入ったボールが用意されています』
『塩水、ですか?』
『はい。あとですね、海苔ですね』
『やはり、おにぎりだ』
『どうやら、黒門選手はおにぎりをつくるようです。まさに炊き出しの様相を呈してきました。が・・・、黒門選手また動きを止めました。これは一体どうしたんでしょうか?』
『うーむ、恐らく蒸らしをかけていると思いますが』
『炊き上がった御飯を蒸らしているわけですね?』
『ええ、ですが、もう時間のほうが・・・』
 真由未は、時計に視線を移した。
「あと十分・・・」
『おいおい、一体どうなってんだ?』
『港さん・・・』
 ディレクターが、困惑した様子で椅子の背凭れを目一杯傾けて振り向いた。
「大丈夫よ、・・・大丈夫」
 とは言ったものの、真由未もいささか心配になってきた。あと五分あまり。おにぎりをつくるにしても時間が無さ過ぎる。
『おーっと、ようやく黒門選手・・・、あ、な、な、なんと内釜を、熱い内釜を素手で掴んだあっ!』
『ああっ、こ、これはっ!』
 副調整室が、一斉に色めきたった。
『・・・み、見えない、て、手が見えない!』
『な、何だ、何が起こったんだ!?』
『な、なんてスピードなの!』
 握った拳に、真由未は思わず力をこめていた。
『み、み、みるみるうちに、お、おにぎりが、山のように積まれていきます!』
『あ、あの滑らかな腕の動き・・・。通り道に全ての具を配置し、それらを最短距離で結んでいる。肘から先の動きに全く無駄がない・・・。そして、い、一瞬のうちに梅干しと海苔を・・・、か、神業だ・・・』
 梅干しの乗った皿から、赤い線がうっすら見えている。それが、黒門が取っていく梅干しの残像であることがわかったとき、真由未はあまりの悪寒に立ち上がっていた。
 僅か五分足らずで、百人分のおにぎりが山と積まれた。黒門は、静かに鉢巻きをほどいた。
「お疲れさん。これ、みんなで食べてや」
 試合終了の銅鑼が鳴った。
 二階堂は、包丁を持ったままで立ち尽くしていた。まるで、ゴーゴンに睨みつけられたように。
『し、試合終了です。二階堂選手、料理をつくりきれませんでしたが、お互いに一品ずつ完成しています。・・・遠山さん、この勝負どうでしょう?』
『あれを見てください。二階堂部長の負けでしょう。・・・残念ですが』
 試食人は、進行をそっちのけでおにぎりを手に取っていった。
「・・・ま、負けた・・・」
 肩を落としてうなだれる二階堂に、黒門が歩み寄った。
「部長はん、そうがっかりしなはんな。わてはな、はなっから勝負する気などあらしまへんでしたんや」
「・・・で、では何故?」
「あれを見なはれ」
 二階堂が顔を上げると、観客やスタッフが、おいしそうにおにぎりをぱくついていた。
「料理に、勝ち負けなんかあらしまへん。料理はな、そんなもんやおまへんのや。・・・食べてくれる人のために、一生懸命心をこめてつくる、それが料理や。・・・あの、満足そうな顔を見なはれ。わては、あの人らのために、料理をつくったんや」
 おにぎりの山は、瞬く間になくなった。
「・・・部長さん、あんたの腕は一流や。マネージメントの筋も、ええもん持ってはる。どこへ行っても十分通用するわ。せやけどな、料理の心だけは、どんなことがあっても、忘れんといてほしいんや。これが、大阪料理部からのメッセージや」
「黒門君・・・」
「食堂のメニュー、ケチつけるの苦労しましたで。あんな完璧なメニュー他に知りまへんわ」
 二人の堅い握手を、モニターが捉えていた。

「・・・これで、全部終わったのね」
 真由未は、まだ誰もいない部室を眺めていた。目まぐるしい二年半、成功よりも失敗のほうが多かったような、そんな気がしていた。だがそれは、ただの謙遜に過ぎない。
「あのお・・・」
 次期部長が、粘り着くような低姿勢で部室に入ってきた。
「あら、どうしたの?」
「はあ、・・・あの、すごく言いにくいことなんですが・・・」
「何なの、言ってよ」
「はい、・・・六月の、イベント、なんですけど・・・」
 真由未は、目が点になった。
「やったじゃないの、土曜日に」
「はあ、・・・でも、六月のイベントなもんで、あの・・・まだ、五月なんですよ・・・」
 点になった目が、とうとうなくなった。
「ま、また考えるの?」
「・・・はい、そうなりますね・・・」
 真由未は、言い様のない虚脱感に襲われながら、這う這うの体で食堂にたどり着いた。
「あーあ・・・」
 また一からやり直しである。
「おやおや、港はん、どないしはりましたんや?」
 厨房から、濃い顔が覗いていた。
「おにぎり、食べはりますか?、精出まっせ」
「ええ、いただくわ」
「へえ、おおきに毎度。おにぎり一丁!」
「あいよ!」
 厨房の奥で、フランス鈍りのまだ少し気取った奴が腕を捲った。
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That’s more than senbsile! That’s a great post!

Posted by Kierra at 2011/06/21 (Tue) 01:48:02

Geld verdienen im Internet

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Posted by Geld verdienen at 2011/11/17 (Thu) 22:40:15

Ich schätze alle Ihre writhing zu diesem interessanten Thema

Howdy! I wissen dies is kinda off topic aber ich wunderte denen Blogplattform sind Ihnen für dieses site Verwendung ? Ich bin krank und müde von Wordpress , weil ich habe Probleme mit Hackern und ich bin an Optionen für eine andere Plattform suchen . Ich wäre fantastisch, wenn du mich in die Richtung einer guten Plattform Punkt könnte .

Posted by faxless payday loan at 2012/01/12 (Thu) 15:55:51

Vielen Dank für ein so wunderbares blog post

Ich bin wirklich lieben das Thema / Design Ihrer Website. Haben Sie jemals laufen in einem beliebigen Web- Browser-Kompatibilität Probleme? Eine Handvoll meiner Blog-Leser über meine Website nicht ordnungsgemäß in Explorer beschwert, aber sieht gut aus in Safari . Haben Sie Ideen, um dieses Problem zu beheben ?

Posted by search engine optimization vancouver at 2012/01/13 (Fri) 09:52:57

Ich bin ein stolzer Kanadier

Bitte lassen Sie mich wissen, wenn Sie für einen Artikel Schriftsteller für Ihre Website suchen. Sie haben einige wirklich gute Beiträge und ich glaube, ich wäre ein guter Vorteil. Wenn Sie schon immer einmal etwas von der Last abnehme , würde ich absolut liebe , einige Artikel für Ihr Blog im Austausch für einen Link zurück zu mir zu schreiben. Bitte senden Sie mir eine E-Mail , wenn interessiert. Cheers!

Posted by oh canada at 2012/01/21 (Sat) 15:40:36
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