1995

私立普門学園高校 #2 ~サム・スペイドによろしく~

 春は、いろいろなことが始まるものだ。年度が一つ刻まれ、全てが新しく変わる。戸惑いや不安を拭いきれないのか、依頼の最も多い時節でもある。
 我が普門学園高校探偵部にも、例外なく新入部員が入ってきた。
 顧問から入部届を渡されたが、果して喜んでいいものかどうか。確かに、三年生部員にとっては楽だが、後々のことを考えるとそう喜んでもいられない。
 1-C、戸川まこと。今年度の新入部員は彼一人だけだった。
 私は、かぶりを振って教員室をあとにした。
 三年生が楽だと言ったのは、例年新入部員は一学期の間三年生部員に就いて、探偵部員として活動すべくそのいろはを学ぶのだ。いろははちょっと古いか。
 彼は十中八九、部長である私に就くだろうが、きっと密度の濃い研修になるだろう。かつて、私がそうだったように。
「おはようございます」
 廊下で、擦れ違い様に挨拶をされた。あまり突然だったので、会釈程度しかできず、少ししてから私は振り向いた。
 襟元に赤いCのバッジを付けて、標準より五センチ丈の長い黒のプリーツスカートに、同色のジャケットのボタンを止めずに、歩く度に前身頃の部分が脇へひらひらと揺れている。
 後ろで束ねている髪は、背中のやや上で丸まって、その背筋は真っすぐに保たれ、一年生にしてはいやに堂々とした歩き方だ。
 ただ、微妙に釣り上がっている目許や、引き締まった鼻梁、下が少し厚目の唇や、それらが配置されているやや面長な輪郭に、私は全く見覚えがなかったのだ。
 だが、確かに、その黒く大きな瞳は、擦れ違い様私の姿を見据えていた。ややハスキーで芯のある彼女の声を思い出して階段を下りながら、私は教室に戻った。
 放課後、部室に赴いた私を、その答えが待っていた。
「戸川まことです。よろしくお願いします」
 てっきり男だと思っていた新入部員は、女だった。まったく、私としたことが、俗な先入観に囚われていたようだ。道理で入部届の字がかわいいと思っていたが。
 緊張の中にも、その笑顔にはさすがに女性らしいけなげさが見受けられた。彼女は、探偵部史上三人目の女性部員になった。
「どこで、私の顔を?」
 彼女は、私の問い掛けに口許の笑みを懸命にこらえていた。
「・・・いいえ、お会いするのは、今日が初めてです」
 怪訝そうな私に、彼女は言い加えた。
「一年生の担任でもある顧問の先生と、三年生のあなたがよく話していたこと。上着の前ポケットの膨らみ。歩き疲れないトレッキングシューズに、素早い歩き方。そして、・・・その鋭い眼差し。すべて、あなたが探偵部部長である証拠です。観月真さん」
 私は、ただ笑うしかなかった。手強い新人が入ってきたものだ。尤も、彼女にはもう教えることがないような気もするが。
「一つだけ、言っておこう。私の名前は、マコトではない。シンだ」
 上着のポケットから、私は簡易型の携帯電話を取り出した。探偵部員に最初に支給されるマストアイテムだ。
「では、型通り、こいつの使い方から説明しようか・・・」
 物珍しそうに電話機を見つめる彼女の表情に、なかなか初初しいものがあってほっとした。

 翌日から、私と彼女のマンツーマンの研修が始まった。
 二年生部員は、早速舞い込んだ依頼に東奔西走している。私も、依頼をこなしながらのレクチャーとなったが、素質がありそうな彼女にはそのほうがいいだろう。
 ここで、我が探偵部のシステムを説明しておこう。
 依頼者は、在校生徒に限られる。学年は問われることなく、教職員の依頼もごく稀に受けることがある。依頼内容は種々雑多であるが、主に恋愛に絡んだことがやはり多い。
 例を挙げるなら、通学途中で見かけるかっこいい男の子を捜してほしいとか、ラブレターを渡すための相手の素行調査とか、彼氏のアリバイを確認してほしいなど、女生徒からの依頼が全体の70%を占めている。
 部員の調査活動に関する経費は、全て部費から調達されるため、領収書の取得は不可欠である。経費が掛かりそうな依頼は、事前にチェックされて断ることもある。内容が公序良俗に反する依頼や、もちろん、法律に触れる依頼もだ。
 報酬についてだが、これは調査を行なった部員に直接、現金以外で依頼者から支払われる。報酬に不満があれば、部員はその旨を依頼者に伝えて交渉することもできる。映画やコンサートのチケットとか、食堂の食券などが多いが、以前女生徒の依頼者から使い古しの下着をもらった部員がいて、これはさすがに問題になったので以後は報酬にもチェックが入るようになった。
 ある土曜日、私は彼女を引き連れて、今回の依頼者との待ち合わせ場所に向かった。探偵部に休日はない。
 まず、依頼者と連絡を取って、会う段取りをつけることが、我々の最初の仕事だ。待ち合わせによく使うのが、駅裏のハンバーガーショップだ。駅前より利用客が少なく、殊に我が高の関係者はほとんど利用しない。判りやすく目立たない場所なのだ。
 規定通り、約束の時刻の十五分前に到着したにもかかわらず、依頼者は先に来て待っていた。食事時を外してあるので、他に客はなく、近づく我々の姿に依頼者は釘付けになっていた。
「すいません、時間を間違えてしまって」
 そんなすっとこどっこいの依頼者の名は、二年某組の仮にW君としておこう。依頼者に関する秘密は絶対厳守なので、彼の詳細をお伝えできないのは残念だが、数少ない男性の依頼者だ。
 イニシャルがWとなると、渡辺とか和田とかしかないが、まあそれはさておき、互いに挨拶をかわすと、三人は席に着いた。
「では早速、本題に入りましょうか」
 依頼内容が単純な場合は、こういった面接は省かれることもあるが、大抵こうして直接依頼者と会った上で話が進められる。
「・・・実は、・・・好きな子がいるんですが」
「ほう、いきなりですね。ま、どうぞ、続けて」
 W君は真っすぐ張った眉を一瞬顰めたが、また元の情けない顔に戻って話を続けた。
「・・・毎朝、同じ電車に乗ってくる、うちの学園のたぶん二年生だと思うんです。あの、私、映像部なんですけど、その子、眠たそうな顔がジュリエット・ビノシュそっくりで・・・」
 私は思わず感嘆の声を上げた。
「んー、それはかわいいですね。『汚れた血』私も観ましたよ。『ポンヌフの恋人』はいま一つだったなあ」
 持っていた鉛筆を指先でくるくる回しながら、まことがひょいと顔を上げた。
「そうですか?、あたしは好きですよ。『青の愛』もよかったですし」
「あ、それまだ観てないんだ」
「あのう・・・」
 W君は、我々の顔を覗きこむようにした。
「話、元に戻していいですか?」
 私は、一つ咳払いをしてから「どうぞ」という手振りをした。まことは、申し訳なさそうにうつ向いてまたメモを取り始めた。
「・・・で、この前、思い切って告白したんです」
 まことは、椅子に深く腰掛けて、一心にメモを取っていた。私も、メモを片手に、依頼者の言葉を頭の中で反芻しながら話を聴いた。
「・・・それで?」
 言葉の途絶えたW君を促すように、私は訊き返した。
「ええ・・・、昨日、その返事をもらいました」
 W君が財布から取り出した紙片を、テーブルの上に置いた。
「?、これが、返事?」
 その紙切れには、手書きの文字で『んいと』と書かれてあった。
「なんです?、これ」
 まことの問いに、W君は落胆したようにかぶりを振った。
「・・・彼女、パズル部なんです・・・」
 私とまことは、大きな溜息をついていた。
「では・・・よろしくお願いします」
 W君の許可を得てその紙片を預かり、私とまことは引き続きその場に残った。
「・・・ま、こんな感じだ」
 氷を鳴らしてソーダを飲み干した私に、彼女は少し物足りなさそうな目をして頷いた。
「・・・パズル部、ですか?」
「ああ、マイナーリーグにあるんだ。結構人気で、重籍している生徒も少なくない」
「ほんとにいろんなクラブがあるんですね、うちの学園は」
「探偵部があるくらいだからな」
 私が肩をすくめてみせると、まことは答えるように眉根を上げた。
「とにかく、その言葉の謎が解ければ、依頼は無事解決だ」
 頬杖をした手に鉛筆を挟んだまま、まことはテーブルに置かれたままの紙片を見つめた。
「・・・謎解きは別にして、それから何か判ることはあるか?」
 まことは、紙片をくるりと回して、文字が正対するようにした。
「そうです…ね・・・、何の思いもなくさっと書いたものじゃないですね」
 まことは、紙片の裏を素早く見た。
「水性の、少し太めのペンですね。わざわざこのペンを選んで書いたのでしょう」
 頬杖の手を退けて、紙片に顔を近付けた。
「・・・一文字一文字丁寧に書いてるナ・・・文字の始点、終点、ともにしっかりしています。紙の折り方も、ちゃんと対称を測っているし・・・」
 そう言いながら、まことは折り線に沿って軽く折った。
「あれ・・・?」
 合わせた紙の端が、僅かだがずれていた。
「もともとこのサイズじゃなくて、大きい紙を切ってこのサイズにしてますね」
 私は、どうやら出る幕がなさそうだ。
「やってみるか?」
 まことは、少し嬉しそうに頬を緩ませて返事をした。
「よし、日曜日の夜までに解答を私まで報告してくれ」
「え!?、に、日曜日の夜、ですか?、明日ですよ?」
「そうだ。月曜日に、またわ・・・じゃない、W君は彼女と電車で会うだろう。それまでに、この返事を解読しないと、報酬はない。そういう契約だ」
「わ、わかりました」
「W君が、笑顔で彼女と会うためにな」
 少し厳しいかとも思ったが、彼女ならやり遂げてくれるだろう。私は、もう少し考えると言ったまことを置いて、店を後にした。
 正直なところ、私もまだ解答が得られていない。簡単な暗号だとは思うが、あまりに簡単過ぎて逆に掴み所がないのだ。
 彼女を頼るわけにはいかないし、こちらも解読しておかないと、報酬が無駄になってしまう。
『んいと』、この文字が何を意味しているのか。彼女も私も、悪い意味ではないことだけはわかっているのだが。

 日曜日の午後、まだ解答は得られぬまま、私は街へ出た。迷ったときはいつもそうだ。
 春先の街は、まるで何もかもが浮かれているように明るい。駅前の公園へ続く通りを、私は歩いていた。
 昨夜、あらゆる暗号法を照らし合わせてみたが、徒労に終わった。何か法則性があるに違いないと、一晩中その三文字を見つめていたが、睡眠不足を煽るばかりであった。
 彼女は、まことは解読しえたのだろうか。何かあれば、ポケットの電話に連絡が来るはずだ。
 間の抜けた呼び出し音に、前を歩いていたスーツ姿の男もうろたえた。
「はい、もしもし」
『・・・観月さん、・・・だめです、わかりません』
 私は思わず微笑んだ。
「今どこだ?」
『外です。駅前の公園にいます』
「そうか、待ってろ。すぐ行くから」
 電話の向こうの、怪訝そうな彼女の顔が浮かんできた。私は、公園へ急いだ。
「観月さんも考えていたんですか?」
 まことは、意外そうに声を上げた。
「いや、別に君を信頼していないわけじゃないが、責任は私にもあるのでね」
 私服の彼女は、実に大人しめだった。
 涼しげな白のワンピースに、季節色のショートジャケットを羽織り、規則に縛られない髪が、微風に揺れている。
「あと六時間ほどだな・・・」
 木々に寄り添うように聳える時計を一瞥して、我々はとにかく歩きだした。
「・・・たぶん、簡単な返事のようなものだと思うんです。『はい』とか『YES』とか」
「ん、私もそう思う。ただ、推測や想像で解答を出すわけにはいかない。誰もが納得できるものが必要なんだ」
「ええ、そうですね・・・」
 まことの言葉は、今までとは打って変わって力ないものになっていた。よほど自信がないのだろうか。
「家でじっと考えてても、やっぱりしょうがないですよね?」
 今日初めて見た、彼女の笑顔だった。
「まあ、一概には言えないが、気分的にはこっちのほうがずっといい」
 もう一度盗み見た彼女の横顔は、どこか嬉しそうだった。
「私がいつも行くところへ案内しようか」
「はい」
 道の行く手に、淡い緑に染まった小高い丘があった。
「あー、なんだか、すーっとしますね」
 両手を大きく上に延ばして、まことは背伸びをするように二度三度と踵を上げ下げした。
「気に入ってもらえたかな」
「ええ、とっても」
 朧げな青空の下、街並みがまるで腕の中にあるようだ。生え始めた芝生の上に、まことも何の躊躇もなく腰を下ろした。
「あー、何もかも忘れそう」
 そう言ってから、急にまことは小さくなってワンピースの裾を押さえた。
「・・・ごめんなさい、そういう意味じゃ・・・」
「いいさ、気にしなくていいよ。昨日から考え通しだったんだろう?」
 私は腕を枕に、芝生の上に寝転んだ。
「ここには、そうやって頭の中をリセットしに来るんだ」
 滲んだような雲が、それでもゆっくりと動いていた。
「何もかも忘れようじゃないか」
「・・・そうですね、そうします」
 身じろぐまことが、視界の端に見えた。
 どれくらい経っただろうか。まことが遠慮がちに話し掛けてきた。
「・・・どんな女の子なんでしょうね、あれを書いたパズル部の女の子って。・・・気になりませんか?」
 どちらかというと、非難的な口調だった。返答に困っていたわけではないが、私はなかなか返事をしなかった。
「・・・観月さん?、・・・起きてます?」
「・・・起きてるよ」
 覗きこまれて、私はようやく身を起こした。
「・・・もっと時間があれば、彼女の素行調査や、W君についてもいろいろ調べるんだが」
「そこからヒントが得られるかもしれませんしね」
「そうだ」
 背中を軽く叩いて、私はあぐらをかいた。
「でも、酷いと思いません?、やっとの思いで告白したのに、暗号みたいな返事を渡すなんて」
「酷いと思う?」
「思います。遊んでるみたいで、あたしは嫌ですね」
 私は、納得したように大きく頷いた。
「・・・君は、どうなんだ?」
「え?、あたし、ですか?」
 私の質問を理解していない言い方だった。
「よそから見れば、探偵クラブなんてふざけてると思われているかもしれない。事実、我々のやっていることは、所詮、探偵ごっこに過ぎない。しかし、そこに係わる者全てが、真剣なんだ。依頼してくる者も、それを解決しようとする我々も」
 まことの真摯な眼差しの中に、私はいた。
「それを、忘れないでいて欲しい」
 まことは、じっと私の眼を見据えながら、僅かに頭を上下に揺らした。
「さあ、そろそろ街に戻ろう。過ぎたるは及ばざるが如しだ」
 我々は、再び街へ下りていった。
「とりあえず、彼女の気持ちになってみようか」
 向かった先は、外資系のおもちゃ専門店だった。広大な駐車場に、倉庫のような店舗、中も当然、だだっ広い。
「いろんなのがありますね」
 まことは、うず高く積まれた膨大な品数に目を丸くしていた。原色使いのパッケージや、派手なデザインに私も目を奪われている。
「ちょっと見ていこうか」
 別に買い物に来たわけではないのだが、焦ったところで解決できるわけでもなし、せっかくだからそういうことにした。
「観月さんは、小さいころどんなおもちゃで遊んでました?」
「んー、やっぱり、ロボットとか、プラモデルとかだったな」
 高い天井一杯まで積まれた品物に圧倒されながら、碁盤状に仕切られた通路を我々は歩いていた。
「君は?、やっぱり、人形とか、ぬいぐるみとか」
 まことは、なぜか笑みを浮かべながら首を横に振った。
「あたし、ぬいぐるみ大っ嫌いだったんです」
「へえ、そうなんだ」
 私は、思いがけず声を上げてしまった。
「人形も嫌いでした。・・・兄が二人いて、あたしも一緒になって遊んでたからだと思うんですけど」
「ふーん、・・・そうは見えないけどね」
「え?、何がですか?」
「いや・・・」
 子供が二人、おもちゃを手にして我々の間を走り抜けていった。
「全然、女の子っぽいし、ボーイッシュな雰囲気もないし」
「・・・そうですか?」
 まことは微笑んだままで、少しはにかんだように目を伏せた。
「あ・・・」
 立ち止ったまことの手には、子猫のぬいぐるみがあった。彼女はその場にしゃがみ込んで、愛くるしい子猫の頭を撫でていた。
「・・・学校に行くようになって、女の子の友達と遊ぶようになってからは、あたしも普通になったんですけど・・・」
 ぬいぐるみを元の場所にそっと置いて、まことは立ち上がった。
「・・・ごめんなさい、行きましょう」
 名残惜しそうに、彼女は先に歩きだした私の後を付いてきた。
「こんなものまであるんだな・・・」
 差しかかった一角には、子供向けの電子手帳やワープロが置いてあった。
「へえ、すごいですね」
 まことが、興味深げに近寄った。
「あたしこういうのだめなんです。コンピューターとか、ワープロとか」
「なんだか、僕らが古い人間のように思えるね」
「そうですね」
 もう一度感嘆の声を上げて、まことはその場を去ろうとした。
「あ・・・」
 急にまことは踵を返すと、またその一角に戻って商品を手に取った。
「・・・・・・わかった、・・・わかりました、観月さん!」
「わかった、って?・・・」
 まことは、抱きつかんばかりに私の肩に両手をかけて、跳びはねるようにはしゃいだ。
「わかったんですよ、あの文字の謎が!」
 狐につままれたような私の顔を覗きこんで、ちょっとだけ誇らし気な笑みを、まことはみせていた。

「おはようございます」
 実に嬉しそうな笑顔で、まことが部室にやってきた。他の先輩部員と二言三言かわしたあと、レポートの整理をしている私のところへやってきた。
「お疲れさまです。観月さん」
「やあ、昨日はご苦労だったね」
「はい、でも楽しかったです」
 まことは、眼をきらきらと輝かせながら、今回のケースのレポートを差し出した。
「先刻、パズル部の部長に話を訊いたんだが、最近、パズル部にパソコンが入ったらしくてね。コンピューターを使ったパズルが流行っていたそうなんだ」
「なるほど、それでなんですね」
「それにしても、いざ蓋を開けてみれば単純な暗号だよ。JIS規格のキーボード上では、『ん』はY、『い』はE、『と』はSと、同じキーの場所にある。従って『んいと』は『YES』となる。悪い返事じゃないってことは、最初からわかっていたんだけどね」
「あの二人、うまくいくといいですね」
 私は、返事を濁した。
「ん、でも、こういうのがもし今後も続けば、W君が彼女に愛想を尽かしかねないかもしれないな。そこがちょっと気がかりなんだが」
「・・・そうでしょうか?」
「違うかい?」
 まことは、一笑してから言葉を続けた。
「人の数ほど、恋愛の仕方もいろいろあると思うんです。あれは、彼女なりの意思表示の仕方なんじゃないでしょうか」
 レポートを片付けながら、私は黙って話を聴いた。
「これから、二人で会って、もっと話をして、お互い知らないところを見つけていって、そうすれば、きっとうまくいくと思うんです。見かけ以上の魅力を、人は必ず持っているはずです」
 私は大きく頷いて、彼女の目の前に封筒を差し出した。
「OK、研修はこれで終わりだ。今日から、一人で頑張ってくれ」
「これは?」
「今回のギャラだ」
 私は、封筒の中身を出して彼女に見せた。
「これって・・・」
「苦労したぞ。二枚ある。好きに使ってくれ」
 少し卑怯かもしれなかったが、彼女を驚かせるにはこれくらいしないと、と思った。
「み、観月さん、いつの間に・・・」
 彼女の好きなバンドのライヴチケットだ。仲のいい幼なじみがいることも、もちろん知っている。
「そういつまでも君にあてられっぱなしじゃ、部長としてのプライドがね」
「・・・さすがです、観月さん。・・・参りました」
 うっすらと涙さえ浮かべながら、まことは一礼した。
「あの・・・、すいません」
「おお、これは和田君」
 忍び足で部室に入ってきたW君は、人さし指を立てて口許にあてた。
「ちょっとぉ、観月さん、まだ匿名なんですから」
「ああ、すまんすまん。で、どうしたんだ?」
 W君の不甲斐ない表情に、まことも不安そうだった。
「会ったんでしょ、彼女と?」
「ええ、それで、デートの約束をしたんですけど・・・、待ち合わせの時間と場所が・・・」
 W君は、ポケットから紙切れを取り出した。アルファベットと記号が全く無秩序に書かれてあった。
「すいません、また、お願いしたいんです・・・」
 私は、まことの顔を見遣った。
「やるか?」
「もちろんです!」
 私は、苦笑してかぶりを振った。嬉しそうなまことの表情に、少しだけ、寂しくなった。
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私はこの興味深いテーマで、すべての身もだえに感謝

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Posted by payday loans toronto at 2012/01/12 (Thu) 14:04:20
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